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「湿布を貼ろうとしてくれたけれど、私がしなくていいと断ったの」
全てを見透かしたようにして、英児父が微笑んでいる。でも目がちょっと哀しそうにも見えた。
そんな父のなんとも言えない顔を見て、なにもかも知られていると悟った。
「父ちゃん。かっこよかったよ。父ちゃんのスカイラインがランエボと並んで走っている姿、すんごいドキドキした。やっぱり父ちゃんが一番だよ」
英児父が唖然とした顔で静止した。
「ば、ばっかやろう。なに言い出すんだ」
「本当だよ。父ちゃん、かっこいい男だよ」
「お、おめえ。なんだかズルイ娘だなあっ」
「え。なんで、ズルイの?」
心からの気持ちを言ったのに。今度は急にぷりぷりと英児父がむくれている。
「うっせい。もういい。琴子も心配して待っている。殴られたことも言ってねえからよ、女同士でなんとかしろ」
「はい。ご心配かけました。ごめんなさい」
最後にきちんと頭を下げて謝ったけれど、英児父に背を向けられてしまう。
社長デスクでなにをしていたわけでもなく、なにかを始める訳でもなく。ただ小鳥に背を向け、腕を組んでじっとしているだけだった。
そんな父を思いやるように、小鳥は事務所のドアを開け、二階自宅へと向かう。
―◆・◆・◆・◆・◆―
「小鳥ちゃん!」
玄関のドアを開けるなり、琴子母がリビングから駆け寄ってきた。
「お母さん。ごめんなさい」
それでも琴子母はなにもいわずに小鳥に抱きついてきた。
背丈がある小鳥より小さな母。でも、ふんわり優しくて温かい肌が小鳥を包んでくれている。その背を小鳥は抱き返した。
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