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「どうして帰ってこないのか、父ちゃんからなんて聞いているの」
小鳥の問いに、琴子母がなにかを感じたのか怪訝そうに小鳥を見上げた。
どうして娘は父親と一緒に帰宅しなかったのか。お父さんはそれを知っているはずなのに、妻の自分には詳しい報告はしてくれなかった。それはなぜ? 母らしく静かに考えている目。小鳥はそっと俯いてしまった。
「……。これ、どうしたの。腫れているじゃない」
案ずる気持ちが落ち着いたのか、母は小鳥の顔を見て頬に気がついた。
「翔兄がその男に殴られそうになって、私、お兄ちゃんを助けたくて『やめて』って飛び込んだの。そうしたら私が殴られちゃって」
なんですって、と――琴子母の息が引いた。
小鳥はきつく目をつむる。どうしてそんなことをしたの! どうしていつも男の子がするみたいなことを平気でするの! それまで散々こんな後先考えない行動で母には心配をかけてきた。その度に母は『小鳥ちゃんは男の子じゃないの。男の子と同じ力はないのよ。同じじゃないのよ』と懇々と叱られてきた。だから今回も騒ぐと思った。なのに、静かだった。
そっと目を開けると、琴子母は目を潤ませたまま、そっと指先で小鳥の頬に触れた。
「そう。桧垣君を助けたかったのね……そう」
これまた意外な反応で、小鳥はきょとんとしてしまった。
それでも小鳥は心配していた母には言っておこうと思う。
「そうしたかったの。翔兄が傷つくのが、とても嫌だったんだ。そう思ったら飛び込んでいたの」
告げた途端、また母に抱きしめられていた。
「そうね。きっとお母さんも、英児さんが誰かに傷つけられそうだと思ったら、小鳥ちゃんみたいに飛び込んでいる」
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