24.車より大事なもの

1/9
前へ
/316ページ
次へ

24.車より大事なもの

 わ、寝坊した! 昨夜の余韻に浸る暇もなく、小鳥は飛び起きる。 「どうしよう。翔兄のスープラ、どうしよう」  朝方、眠っている彼をそのままにしておきたくて、小鳥はそのままにしてMR2でひとり龍星轟に戻ってしまった。  英児父と話した後、ガレージにエンゼルをしまいに行く時、従業員駐車場にスープラがそのまま残っていることに気がついた。  もどる? お兄ちゃんを起こす? 知らせる? どうしよう――。  なにもかも都合が悪かった。何故、翔が相棒とも言えるスープラを龍星轟取りに帰ってこなかったのか。何故、小鳥だけ一人で帰ってくるようなことになったのか。英児父に問いただされたら、小鳥は言葉に詰まるだろう。翔兄もきっと落ち着いた顔をするだろうけれど、内心では困るだろう。  彼をそっとしておきたかったのに、かえって、彼らしくない行動をさせることに……。  そして、小鳥はここでさらなる確信を持つ。英児父は、娘が部下の男と長い時間一緒にいて『どのようなことが起きるか』、もう見通している。だから、聞きたいけれど、やっぱり聞けなかったのではないだろうか。いつ、どのようにして翔と別れ、何故、大事にしている車を翔は取りに来なかったのか。それを聞けば、決定的になることを恐れていたのかもしれない?  少し早く起きて、お兄ちゃんを龍星轟に連れてくればいいかな。なんて考えていたら眠ってしまい、しかも寝坊。  急いで支度をする。    『少しだけでも眠っておきなさい。無理しなくて良いのよ。今日は学校もアルバイトも休みなさい』と、琴子母は言ってくれたけれど、家にいるといろいろ考えてしまう癖があり、じっとしていられない性分。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2651人が本棚に入れています
本棚に追加