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そうか。私が忙しくしているのは、本当はすぐに考え込んでしまうタイプだから? なんて小鳥はそう思ったりもした。
いつもの朝、いつものリビング、いつもの服装。昨夜の熱いひととき、裸になって男の人と抱き合っていたなんて……。自分のことではないみたいだった。
寝坊をしたせいか、弟たちはもう学校へと出かけていた。
母も父ももう何も触れてこない。
1時限目開始にギリギリ間に合うか間に合わないか。だけれど出勤ラッシュの時間帯も過ぎる頃だから、もしかすると今の時間の方がすいすい運転できるかも。そんなことを考えながら、通学用のトートバッグを手に小鳥は自宅から龍星轟店舗へと階段を駆け下りる。
いつもなら事務所のドアを開けて、武智専務に朝の挨拶をして……。そして『お兄ちゃん』を探す。朝早く出勤してくるお兄ちゃんがその日のスケジュールを確認している背中を見つけて……。うーん、やっぱり今日はドアを開けにくい! 英児父がどんな顔をしているのか。人の様子に敏感な武ちゃんが、英児父や小鳥を見てなにか見抜いてしまわないか。そう思うと開けられない。
翔もどうしているのだろう? バス? タクシー? 車大好き運転命なお兄ちゃんが徒歩で来るだなんて想像できない。自転車? 持っていないはず。どうやって出勤するの?
トートバッグから急いでスマートフォンを取り出し、メールか電話か、とにかく連絡をしてみようと小鳥は慌てた。
「武智。悪いけどよ。翔と二人にしてくれ。外を掃除している矢野じいも事務所に帰ってこないよう誤魔化してくれないか」
そんな声がドア越しに聞こえ、小鳥ははっとしてスマートフォンを操作する指先を止めた。
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