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「わかった。タキさん」
ドア越しの会話に小鳥の心臓が早く動き出す。
朝の事務所に、車を置いていったはずの翔が既にいる。きちんといつもの早い時間に出勤している。
しかも英児父は人払いをしてまで、翔と二人きりになろうとしている。それはなぜ? 夜明け前に帰ってきた娘から、英児父は確かに『好きな男と一晩一緒にいた娘がどうなったか』も察していたと小鳥は思っている。
そう思って……。では、英児父はどうでるのか。
「昨夜は大変だったな」
姿は見えないが、英児父のそんなひとことから聞こえてきた。声が近いので、ドアのすぐ前にある社長デスクにいるようだった。それならそのデスクの正面に彼がいるはず。
「申し訳ありませんでした。こちらの交友関係で起きたことで、ご迷惑をおかけしました」
律儀で生真面目な翔兄が、いつもの落ち着いたクールな横顔で頭を下げている姿が浮かんでしまう。
英児父の大きなため息が聞こえてきた。
「おまえ、何も悪いことはしていないだろう。どうして謝るんだ」
「自分はなにもしていなくても、自分がそんな男を引き寄せていたんです。そのせいで、お嬢様の車が狙われたり、巻き込んで殴られたり……。心苦しく思っています」
「そりゃあなー。小鳥がエンゼルをぶつけられた時も肝を冷やしたし、昨夜、あのバカ娘が相変わらず後先考えずに自分から突っ込んでぶっ飛ばされた時には、俺の方がどうにかなりそうだったわ」
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