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『おめでたい娘』と昨夜言われた小鳥だったが、いまなら父親のあの言葉を素直に受け取れる。本当にその通りだったんだと身に染みる。
「翔、瞳子さんに連絡とれるか」
思わぬ父の言葉に、小鳥はドア越しに静かに目を見開いた。
もう二度と会わないと、はっきり告げて帰らせたのに?
「なぜですか。社長。彼女とはもう二度と会わないと決めています」
思わぬ上司からの指示に、翔も飲み込めない様子。
「おまえとじゃねえよ。俺が会って話したいんだよ」
はあ? 何を言い出すの、この父ちゃんは!?
もうちょっとでこのドアを開けて、男二人の対面に飛び込んでいきそうになったけれど、小鳥は頬の痛みを思い出しなんとか堪えた。
当然、翔も驚いているに違いない。
「あ、あの。社長は彼女と、なにを……?」
「可愛い女の子は、おっちゃんじゃないと話してくれんこともあるんよ。元カレに言いたくないこともあるだろうよ。まあ、そんなところ」
また二人の間に妙な沈黙――。
俺ぐらいの親父ではないと、若い女性が話せないこと。それを聞いてやっと小鳥も父の意図を汲み取れた。
きっとあれだ。瀬戸田につきまとわれていたかどうか。それを知りたいのだと。そして瀬戸田という男の言い訳が、実際は翔に向かっていた訳ではない。それも確認しておきたいのだろうと。
翔のせいではない。翔のせいで事件が起きたようにされている。それを確かめるのだと――。
「そう構えるなよ。むこうも弁護士をたててくると思うんだわ。その時にこっちも足下固めておかなくちゃならねえんだよ」
「そういうことならば。わかりました。互いに連絡先を変えているので、友人に頼んでみます」
「頼むわ」
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