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「車、取りに来なかったんだな」
また父の気になる一言に、やっと歩き出した小鳥の足が止まる。
やっぱり父ちゃん、我慢できなくて探っているじゃん! 小鳥の心臓が今度こそドキドキ破裂しそうだった。
「スープラより大事なもんでもあったのかね」
翔がどう答えるのか、また父親はどう受け取るのか。また言い合うのか。もう小鳥は通路の壁に寄りかかって、なんとか崩れそうな身体を支えている。
「そうですね。車より大事なものだってありますよ。俺にも」
車より大事なもの――。それって私のこと? 車しか見えていなくて恋人と別れた人だったのに。いまだって車が大好きで、小鳥はそんな男性でも全然構わないと思っていた。でも、やっぱり嬉しい!
「まあ。そうだよな。俺だって、スカイラインとGT-Rより、琴子がいなくなるほうが堪らねえもんな」
それって? 父ちゃんには琴子母。では翔には……。そこで父親が誰と並べて言っているのか、やっぱりわかっていると思った小鳥は再び胸がドキドキざわめいてやまない。
「本当に、社長は相変わらずオカミさんが一番ですね」
翔は余裕で笑っている。
「ばっかやろう。あたりめえだろ」
英児父も、いつものおおらかな笑い声を立てていた。
「自分もそんな男になろうと思っていますよ。コーヒー、淹れますね」
「おう、頼むわ」
今度こそ、本当に男同士の対話が終わったようだった。
小鳥の目に涙が滲んでいた。
その顔を見られないよう、小鳥は事務所裏通路を出ると急ぎ足でガレージに向かいエンゼルに乗って出かけてしまった。
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