25.純情バカ娘のケジメ

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「滝田は事務仕事で雇ったつもりはありません。たかがアルバイトでしょうが、それでも店に出れば客に接する立派なスタッフです。甘やかすつもりはありません。きっと滝田社長もそう思っていることでしょう。私にはわかりますよ。あの親父さんの真っ直ぐさを、昔から知っていますから。美々社長も、あの元ヤン社長のこと良く知っているでしょう。本当は『今日は迷惑がかかるから行くな』と言いたかったことでしょうね、父親として。でも娘の仕事は範囲外だと口出しせずに、そのまま彼が私のところに届けてくれたんだと直ぐに判りましたよ。彼女はもう成人しました。社会でのことは社会の先輩に預けるという父親の心積もり。彼から預かっている以上、なおさら甘やかすつもりはありません」  さらに手厳しい専務の意見に、美々社長も納得したのか『わかった。専務の言うとおりよ』とその後は何も言わなくなってしまった。 「もういいぞ。滝田」  すぐに出て行けと言っているような怖い眼差しに気圧され、小鳥は一礼だけして事務所を後にした。  スタッフルームに戻って、やっと涙が出てくる。  正しいけれど、軽率だった。それは難しい言葉のようで、小鳥には良くわかる。初めて自分が目指しているもの責任という重みがずっしりとのしかかってくる。  真田珈琲本店を後にして、小鳥はMR2に乗り込んだ。急に時間が空いて、でも真っ直ぐ家に帰ることもできず――。  昨夜、ランエボに遭遇した勝浦の海岸沿いを走るのも嫌になり、ダム湖はなおさら。そして遠く岬や、しまなみ海道まで走る気もおこらない。  どこに行けばいいのだろう。  いつのまにか、小鳥はそこに辿り着いていた。  夕なずむ港町が見える彼のマンション。カモメのキーホルダーを手にして、まだ彼が帰ってきていない部屋の鍵を開けていた。
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