25.純情バカ娘のケジメ

6/9
前へ
/316ページ
次へ
 夜の静寂。いつのまにか夜空の藍に溶け込むように眠っていた。    甘い、優しい匂い。でも頬を埋める白いシーツには、男の匂い。  昨夜のままだったシーツには血の痕が残っていた。  ここなら一人でいられるかも。そう思って頼ってきたが正解だった。  港が近い彼の部屋は、昨夜と同じくとても静かで、そして夕日が綺麗にベッドルームに入ってきて穏やかだった。  もう匂いはすっかり小鳥に馴染んでいて、彼がいまここにいなくても、小鳥を優しく包んでくれるあの腕の中と変わらないと感じられた。  ベッドのシーツに顔を埋めてひとしきり涙を流すだけ流したら、昨夜からの疲れや張りっぱなしだったテンションが切れたのか、すうっと眠ってしまったようだった。   「小鳥。ここにいたのか」    そんな声で目が覚める。  翔が帰ってきた。   「親父さんが、どこに行ったのかと心配していた」  まだ眠い目を小鳥は何度も開いては閉じた。  頬に冷たい手。龍星轟の男達は、冬は外仕事で身体が冷える。みんな、手が冷たくなる。  そこで小鳥はやっと目を開ける。 「翔兄。おかえり」  シーツに頬を埋めたまま、ベッドの下で跪いて小鳥を撫でる翔と目が合う。 「真田のアルバイト。謹慎になったんだってな」 「……なんで、知っているの」 「閉店前に、真鍋専務から親父さんのところに連絡が来たんだよ。だけど親父さんは『そうなると思っていた』と言っていた。今朝から判っていて、小鳥を送り出したみたいだった」  涼おじさんが言っていたとおりだった。『滝田社長もわかっていて、何も言わず小鳥を送り出し、俺に預けてくれた。だから甘やかさない』と言っていたとおりだった。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2651人が本棚に入れています
本棚に追加