3.お兄ちゃんのマンション

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 じゃあ、花梨ちゃんは。小鳥を一刻も早く一人にするため、自由にするために、勝部先輩の車に乗っただけ?   それに気がついて、小鳥は急に力が抜けるような気がした。靴も脱げずにそこで壁にもたれていると、リビングへと向かおうとしていた翔兄が怪訝そうにして戻ってきた。 「どうした、小鳥」  今度はあの涼しげな一重の目で強い眼差しを注いでくれている。  そんな頼もしい眼差しの彼を知って、小鳥はついにその胸に飛び込んで、彼が着ているネルシャツを握りしめ顔を埋める。 「小鳥。なにかあったのか」 「翔兄……。私、すごく心配なことがあって……。でも、でも、違っていたのかもって、安心して力が抜けちゃって……」  長い腕が、力が抜けていきそうな小鳥の身体をその胸へと抱きしめ支えてくれていた。  こうして彼の胸に飛び込むなんて、今までだってなかった。そうしたくても出来なかった。そして彼だって、小鳥を抱きしめるだなんて……。あるわけがなかった。  抱き合ったのは、彼がまだMR2に乗っていた頃、恋人と別れた夜の日。ひとりじゃないよと小鳥が抱きついた。戸惑いながら抱き返してくれた翔兄は『しばらく、人がこんなに温かいんだと忘れていた』と小鳥を抱き返してくれた。でも堅く躊躇っている身体で小鳥を抱いてくれたその腕はまさに『関係のない異性』への反応だった。  二年経ち、五日前の岬の夜はもう違っていた。やっとこの人の胸の熱さと柔らかさを知った。とても居心地が良くて、しばらく彼とただ抱き合ってから岬を後にした。
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