25.純情バカ娘のケジメ

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「翔兄……。ここにいさせて」  隣にいる彼の胸に抱きついた。……もう彼はびっくりして身体を硬くすることはない。昨夜、結ばれた身体同士だから、深く静かに抱き留めてくれる。  小鳥も悲しくて落ちていく中、優しい羽毛に包まれたよう。  もう彼の腕は、私のもの。抱きついたら優しく吸い込むように抱きしめてくれるようになった。もう他人行儀に身体を硬くすることはない。それだけで小鳥は安心もするし、気持ちが落ち着く。 「なにかうまい物でも食べに行こうか」 「ううん。ここにいたい。どこにも行きたくない。今夜は走りたくもない」 『そうか』と彼がまた頭を撫でてくれる。 「晩飯、買ってくる。待っていろよ」  ベッドルームに小鳥を置いて、翔はまたスープラのキーを片手に出かけていった。    帰ってきた彼が作ろうとしたのは『たらこスパゲティ』。  その材料を買って帰ってきた。  小さなダイニングテーブルに買ってきたものが並べられる。 「お兄ちゃん、料理したりするんだ」 「簡単なものだけな。子供の頃からの好物で、実家から独立する時に母親から教わった料理のひとつなんだよ」 「手伝う!」  いつもの元気娘になった小鳥を見て、彼が嬉しそうに笑ってくれる。 「小鳥だって落ち込むことあるだろうけれど、やっぱり元気な小鳥がいいよ俺は――」  材料を両手に抱えてキッチンへ行く途中、翔にぎゅっと抱きしめられていた。小鳥はびっくりしながら彼の胸から見上げると、その拍子にもう唇を重ねられていた。 「翔、に……」
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