25.純情バカ娘のケジメ

9/9
前へ
/316ページ
次へ
 かるく重ねられただけの唇、でも大きな手が強く小鳥の頭を引き寄せる。『もっと俺とくっついて』そういいたそうな力強さ。そんな翔の舌先が小鳥の唇を静かに愛撫して、『口を開けて』と求めている……。いままでキスに慣れていない小鳥をリードするように、彼から唇をこじ開けて入ってきたのに……。  そんな求愛に負けて、小鳥から口を小さく開けて、彼の舌先を迎えるように吸った。  小鳥から招き入れたんだから、もう遠慮はしない。そんな彼の舌先……。 「んっ……」  今日、彼の柔らかい唇は小鳥の口先をちゅっちゅと幾度も吸って、いつまでも離してくれない。  なんだか、いままでと違う……。彼のキス。  しつこいくらいの熱いキスがそのうちに耳元に移った。 「翔にいっ」 「今夜はこれで……、やめておく」  熱いため息混じりの声が耳元をくすぐる。やっと彼が小鳥を腕から放した。小鳥の腕にある材料を手に取るとキッチンへ行ってしまう。  小鳥もその後をついていく。  気のせいか。なんとか落ち着こうとしているような、お兄ちゃんらしくない翔兄の横顔。頬が赤くなっているように見えた。 「昨夜の……、」 「うん……なあに」 「いつまでも小鳥の匂いが……」 「う、うん……」  その続きをなかなか言ってくれなかったし、言わないまま翔は料理を始めた。結局、その後も続きを言ってくれなかった。  でも。小鳥にも通じてくる。『昨夜の、小鳥の匂いがいつまでも残っている。忘れられない』なのではないだろうかと。  何故なら。小鳥も一緒だから。翔の匂い、肌の熱さに、愛してくれた手や唇。すべてが身体中に残っているから。  彼も、お兄ちゃんだけじゃない。男の人になったんだと感じる熱いキスに変わった気がした。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2651人が本棚に入れています
本棚に追加