26.やんちゃ娘と淑女

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 食後は小鳥が珈琲を淹れて、またふたりでずっとお喋り。普段は口数少ない翔だけれど、今夜は泣いてやってきた小鳥にはお兄さんの顔でいろいろと耳を傾けてくれる。  車のパンフレットや雑誌を見て盛り上がったり、この部屋に通うなら『今度、珈琲を淹れる道具を買いそろえるね』なんて相談をしたり。そんな話をしているうちに、小鳥は車の雑誌を束ねているソファーを片づけている時に、他の雑誌と広告チラシを見つけた。  それは部屋探しの雑誌とチラシだった。赤いペンでいくつかチェックしてあるし、雑誌にはいくつもの付箋がついている。  お兄ちゃん? 聞こうとしたら、テーブルで小鳥が淹れた珈琲を片手にくつろいでいた翔の側にあったスマートフォンが鳴る。 「ああ、うん。そうか、わかった。社長に言っておく」  会話は短く、翔はそれだけで電話を切ってしまった。  黙って待っていた小鳥を見た翔が、いつもの八重歯の微笑みを見せる。 「大学のサークル仲間だよ。長嶋という男。そうだ、今度、長嶋にも小鳥を紹介しなくちゃな。あいつには、社長のお嬢さんが成人になるのを待っているなんて……話していたから」 「えー! それってお兄ちゃんの親友ってこと?」 「そうなるのかな。あっちは生粋の映画オタクだよ。だけれど気が合うんだよな。夢中になっているものは違うけれど、マニア的精神が似ているというか。あいつ部長で、サークルの同窓会をするときもリーダーなんだ」 「映画マニアの部長さん。会ってみたい!」  そうなんだと小鳥は笑ったけれど、今朝の事務所で英児父が翔と話したことを忘れてはいない。  きっとその長嶋さんが、翔兄に頼まれて瞳子さんに連絡ができるようにしたのだと。
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