26.やんちゃ娘と淑女

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「うん。被害届を出すとまたいろいろ大変だろうからな。慎重に検討しているんじゃないかな。社長を中心にして、まとめようとしているみたいだ。高橋さんには被害者代表みたいなことをお願いするとか言っていたからな」  どうも親父さんグループで結束してしまったようだ。なんだかもう自分たちに起きた話ではないような気分にもなる。  それは小鳥だけではなかったのか。高橋ジュニア・ランエボの黒いルーフをワックスがけしている翔の手先が止まった。 「翔兄?」  じっと、ワックスが塗られたルーフを見つめているだけ。 「翔兄……」  その目が哀しみで溢れていることに小鳥は気がつく。  そうだよね。本当は翔兄の知り合いから起きた事件だったよね。責任、感じているよね。どんなに父ちゃんが『おまえはなにもしていない。悪くない。気にするな。相手から悪いことを持ち込んできたんだ』と言ってくれても……。  もし。顧客の誰かが『龍星轟に桧垣がいたせいだ』と言いだしたら、それは何も言えなくなるに違いない。 「翔兄。大丈夫だよ。お店のみんな、おじさん達もマコちゃんもノブ君も、ダム湖の仲間だって翔兄が悪いだなんて思っていないよ」  翔が無言でルーフのワックスを塗り始める。  どんなに言っても、自分の人間関係のせいだと責任を感じるのは『本人だけの気持ち』だと言いたいのだろう。それでも小鳥は諦めずに、翔に告げた。 「お兄ちゃん。お兄ちゃんがみんなのこと信じているように、お兄ちゃんもみんなのこと、信じてあげてよ。お兄ちゃんがみんなを好きな分だけ、きっとみんなも翔兄が好きだよ。ダム湖で一番の兄貴は翔兄じゃない。翔兄がいて、みんな、安心して走ってきたんだよ」
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