26.やんちゃ娘と淑女

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 綺麗ごと過ぎるとわかっている。英児父なら『純情バカ娘』と言うのだろう。でも、小鳥はこのお店を通じて親しくなってきた人達だけには、そういいたい。信じていきたい。大好きな人達ばかりだから。  翔の、ワックスを塗る手がまた止まった。その手に気がついて、ボディの向こう側にいる翔を見ると、あのクールな眼差しで睨まれていた。 「ご、ごめんなさい。私がいうこと、子供っぽいね」 「いや。ここが職場で困っているだけ。ありがとうな、小鳥」  あれ? え? 怒っていたんじゃないの? 感じた表情と言ってくれたことが真逆で、小鳥は呆然とする。 「でも。俺はそんな小鳥に何度も助けられてきたよ。だけど、それが俺だけじゃないのが、時々心配だな。お兄ちゃんとしては」  なんだか、すごく疲れたようなため息をつかれてしまうが、クールな目元はもう優しく緩んでいた。 「頼むから。他の男にも優しくして、無意識に執着されないように」 「また~、そんなこと言って。翔兄って心配性だよね」 「小鳥が心配ばかりさせるからだろ。親父さんが心配してきた分、これからは俺も同じように心配するんだ。これからずっと」  まるで『これからは俺が親父さん同様の男として、ずっと小鳥の心配をする』、『親同然の男』と言っているようで、小鳥はびっくりしている。  つまり。それって……。父ちゃんの代わりになる男になるって誓ってくれているの?   そんな小鳥の顔を見て、今度は翔がきょとんとしていた。 「どうかしたのか」 「お兄ちゃんだって無意識だよねっ。十歳も年下だから何を言っても気がつかないだろうと思って、からかったらいけなんだよっ」 「はあ? なんのことだよ」
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