27.胸を張って、見せつけろ

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「隙、ですか……それは……」  翔の恐れた口調。小鳥の心も落ち着かなくなる。大人の考えなら、心弱っている時に優しく入り込んできた男になにもかも許してしまったことが浮かんだ。つまり、それは『夫への裏切り』だった。  八年間付き合い別れた恋人が、自分と別れて仕方なく結婚をして、思い通りの結婚生活ができなくて、その果てに以前振った男の誘惑に負けて身体を許してしまう。それは恋人だった男にとってどんな思いなのだろう。  その瞬間、大好きな彼の心が前の恋人に奪われているようで、小鳥も辛い。そんな場所に、英児父はどうしてか小鳥を呼びつけた。何故? 「心配すんな。そこは大丈夫だったみたいだ。隙は見せて、慰めてはもらったみたいだが。最後の最後、拒否をしたんだと。そりゃ、つきまとわれるわ。瞳子さんも失敗したと思ったらしいよ」  そこで、従業員の事務デスクで素っ気ないふりで聞き耳を立てていた眼鏡の専務が割って入ってくる。 「やっぱりね。俺とタキさんが思ったとおりだったじゃん。下手に相手して、ストーカー化したってこと?」 「ああ。それで旦那には相談する訳にもいかないだろ。大学時代にフッた男の相手をしてつきまとわれているだなんて。しかも旦那も親も留守になった。赤ん坊と二人。恐ろしくなって、心も追いつめられて、それで翔のところに二年ぶりに駆け込んでしまったってわけだ」  小鳥が事務所ドア裏で、こっそりと聞いてしまった英児父の予測通りだった。 「じゃあ、翔兄のせいじゃないんだね」
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