27.胸を張って、見せつけろ

5/6
前へ
/316ページ
次へ
「こんのバカ娘! おめえに言ったんじゃねえよ、翔に言ったんだよ。しかも、ぶん殴るつもりだっただとー!? いい加減にしろっ。おめえは胸を張る前に、その無駄な勢いひっこめろ!」  立ち上がった英児父がスパンと頭を叩いた。小鳥は『痛ーいっ』と唸る。 「もう~。なんなのよ、父ちゃんったら! 気持ちだけで、本当に殴ったりしないったら」 「いやー、わからんぞ。おまえに限ってはわからんぞ。おまえ、カッとなったら周りが見えなくなって飛び出すじゃねえか。ほれ、その口元の痣はどうした、どこでどうしたら女の子の顔にそんなもんができるんだ」 「うるさいな~、もう。わかっているくせに、そういう言い方、腹立つ!」 『あんだと、このバカ娘』、『父ちゃんなんか、大嫌い』なんて、久しぶりにお互いムキになって言い合う。  そのうちに、小鳥の隣からクスクスとした笑い声が聞こえてきた。  哀しい目で下を見ていた彼が、翔が笑っている。 「そうですね。俺も、小鳥と一緒に胸を張って、そう、もう忘れます」  いつもの八重歯の微笑みを取り戻してくれた。小鳥は嬉しくなって、抱きつきたくなったが、さすがに堪えた。  もうもう、ここが父ちゃんのデスクでなければ『翔兄!』って抱きついているのに――と、もどかしい。そうしたらきっと翔兄もいつもの優しいお兄ちゃんの顔になって抱き返してくれるのに。その時に伝わるお互いの肌の柔らかさとか、体温とか、匂いとか、手触りとか。それを知って、二人で一緒に安心できるのに。  今夜、翔兄のマンションに行こう! やっと心浮き立ったその瞬間、英児父に告げられる。 「それでな。翔……。瞳子さんがおまえに会いたがっていた」
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2652人が本棚に入れています
本棚に追加