28.ママに似てきた?

1/7
前へ
/316ページ
次へ

28.ママに似てきた?

 恋人になったばかりの翔が、また元恋人の瞳子に会いに行こうとしている。  でも、もう『行かないで、お兄ちゃん』――なんて小鳥は思っていない。  父親が小鳥の顔を、座った姿勢から覗き込んでいる。 「なかよしの兄貴がよ、別れた恋人に会いに行くってよ。気になるかもしれねえが、子供の出る幕じゃねえ。邪魔すんなよ」  なんだか、ものすごく腹が立った。仲の良い兄貴といって、父親の眼が『おまえが惚れた男』と試している。惚れた男だから気になるかもしれないが、おまえはまだ子供だから首を突っ込むなと、おまえなんかまだ男と対等になれる女じゃねえ、まだガキなんだよと煽っている。そして、邪魔するなと――心配もしている?  娘が部下の男を幼い時から慕ってきたことを知っていて、惚れている男と一晩一緒にいたことがどういうことか察していて、でもそれを認めたくないから、認めるわけにいかないから、でも男と女になったおまえと翔の問題だと投げかけている。  娘を試す父親の眼が徐々に凄味を増している。でも小鳥も怯まない。父親を睨み返す。  そんな父と娘を、武智専務も矢野じいも、ハラハラした様子で見守っているだけ。  父娘無言の張り詰めた空気。事務所が静まりかえっている。そんな父に、小鳥ははっきりと言い切る。 「子供だけれど、それでもお兄ちゃんがここに帰ってくるまで、ちゃんと待っていられる。お兄ちゃんが決めること、私が決めることじゃないよ。だから、どう決めるのか待っていられる」  本当はひとことで済む。『大好きな彼を信じる』とだけ父親に言えばいいこと。でも向こうも『惚れた男が前の女に会いに行くけど、おまえ、信じて待っていられるか』と釘を刺せばいいのに、父親も遠回しに来たから、娘である小鳥も同じよう遠回しに返しただけ。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2652人が本棚に入れています
本棚に追加