3.お兄ちゃんのマンション

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「あのな、そういう時期があるんだと思う。想いとはうらはらに、人肌寂しいというのかな。遠距離恋愛で潰れていく仲間を俺もだいぶ見てきたから。想いがあっても、若さゆえの、そういう寂しさっていうのかな。たぶん、その彼も花梨ちゃんもそういう意味で上手く噛み合ってしまったんだと思う。遠距離中の彼もカノジョの元に帰るつもりなんだろうし、花梨ちゃんもただその時だけの男でしかないとかね」 「ヤダ、そんなの! 地元の彼女も可哀想だし、花梨ちゃんだって虚しくなるだけじゃん!」  すかさず叫んだ小鳥を見て、翔は致し方ない笑みを見せた。でも、大きな手が小鳥の頬へと触れ、頬に沿う黒髪をそっと撫でた。 「そう言い出すと思った。小鳥らしいけど……。だけどな、誰だって真っ直ぐでいたい、だけど上手くいかないことが多いんだよ。わかるよな。花梨ちゃんの葛藤。それに、今夜は小鳥に自分のための時間にしてもらおうと、皆が小鳥の手を煩わせないよう早く切り上げてくれたことだってわかったんだろ。それなら、もう少し花梨ちゃんを信じて、様子を見ればいいじゃないか」  決して、激しく反論などしない優しい声に、小鳥の尖った気持ちもなだらかに収まっていく。 「うん、そうだね。そうする。幹事同士で帰っただけなのかもしれないし」 「いつもならエンゼルの助手席は花梨ちゃんなんだろう。今夜は小鳥を早く一人にしてあげたかったのかもしれないしな」 「うん。きっとそうだ。うん、きっと……」
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