28.ママに似てきた?

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「もういいかな。父ちゃん。矢野じいの手伝いをしていた途中なんだけれど」 「ああ、もういいぞ」  なにか諦めたようなため息を落とし、英児父は事務作業に戻ってしまう。  小鳥も『まったく。面倒くさいなあ』と呆れながら、ダイレクトメールの手伝いに戻った。  母親の勤め先である三好堂印刷から出来上がった龍星轟の広告を封筒に入れていると、目の前で矢野じいがじいっと小鳥を見ている。 「なに。矢野じい」 「小鳥。おまえったら、後ろ姿だけじゃなくて、女としても琴子にそっくりになったんだなあっと思ってよう」 「え、どういうこと?」  いつも元ヤンの親父さんにそっくりと言われる。お母さんに似ていると言われるのが憧れだった。でも近頃、矢野じいが『琴子そっくりの体つきになりやがって。後ろ姿そっくりだわ』と言うように……。それはそれで嬉しいけれど、また『母に似ている』と。 「あのよ。琴子もよ、英児がいろいろあった時によ。『彼は過去を通って、いま私がいるところに帰ってくるから、待っている』とか言ってよ。英児と前の女を……」  英児父と元恋人と、琴子母。それは先日、英児父が翔に『俺も三十の頃に女といろいろあって、数年後、付き合い始めた琴子を傷つけた』と言っていた話のことだろうかと小鳥は思い出す。 「ちょっと、矢野じい……」  隣デスクにいる武ちゃんが、困った顔で矢野じいの腕を引っ張った。 「タキさんが、睨んでる」  社長デスクから、本当に英児父が矢野じいを睨んでいた。矢野じいが『しまった』と肩をすぼめたが遅かった。 「ジジイ、ツラ貸せや」
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