28.ママに似てきた?

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「娘に喧嘩売るな、大人げない――じゃないかな? 俺も思ったもーん。なのに、娘のほうがしっかり大人の顔で言い返したもんだから、父ちゃんの負けってわけ。娘にしっかりやり返されてイライラしていたんでしょ。それで矢野じいに当たったもんだから、矢野じいも売られた喧嘩買ったんでしょ。俺に喧嘩売るなんざ五十年早いが、矢野じいの昔からの口癖。まあ、久しぶりだけどね~」  俺は殴り合いになって、器物損害がなければ全然平気。武ちゃんはガレージで殴り合いの様子がないことを確認すると、もう他人事とばかりにデスクに戻ってしまった。  数分後、矢野じいだけが帰ってきた。英児父はどうしたのかと思ったら、そのまま黒のスカイラインでまた出かけてしまったので、小鳥はギョッとする。  戻ってきた矢野じいが『ガキか。まったく、どうしようもねえ』と吐き捨てながら、スカイラインを見送ってしまった。 「まあ。わからんでもないわ。娘が年頃になったら、イライラするもんなんよ。しかし、小鳥。よう言い返したわ」  矢野じいは褒めてくれたけれど、武智専務は苦笑い。 「よく言うよ。矢野じいだって、娘さんが男連れてきたら荒れたんでしょ。一発殴ったんじゃないの。絶対、拳が先に出ているよね。可哀想なお婿さん」 「うっせい、うるせい、うるさいわいっ」  顔を真っ赤にして矢野じいがムキになっているので、小鳥は『嘘じゃなさそう』と頬を引きつらせる。他人事じゃない。本当の父子の如く性質が似ている師弟だけあって、英児父ももしかすると、もしかすると?  いまはスカイラインですっ飛んで済むかもしれないけれど、やがて翔を見て、矢野じいみたいになってしまわないかと小鳥は震えた。
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