28.ママに似てきた?

5/7
前へ
/316ページ
次へ
 その反面。『どこのお父ちゃんも一緒だね。仕方ないか』と、妙な諦めのようなものも湧いてきた。翔はどう思っているのだろう。 「港の海岸を一走りしたら帰ってくるわい。頭を冷やしているんだろ。ここは父ちゃんじゃなくて、社長でなくてはならないからな」  師匠である矢野じいは、いまや立派な社長で経営者になった弟子には余程のことがない限り口出しもしなくなった。すっかり好々爺になったと思ったけれど、いざというとき、英児父を諫める役目はまだ降りていないようだった。    ―◆・◆・◆・◆・◆―    一日、龍星轟で手伝いをした。  洗車にワックスがけ。事務所の掃除に事務仕事。顔見知りのお客さんが来たら、今日は小鳥が珈琲を淹れた。  日が暮れ、龍星轟も閉店前。小鳥は店先を矢野じいと一緒に掃き清め、その日の手伝いを終える。  やはり体を動かしているほうが性に合っている。余計なことを考えなくていい。きっと英児父はそんな娘だからと思って、店に出してくれたのかもしれない。  実際に、小鳥が珈琲を淹れる姿を見てホッと安心してくれた顧客さんが何人もいた。小鳥の姿を見せて、顧客の心配も取り除こうとしたのかもしれない。  龍星轟の終業ミーティングが始まろうとしていたので、小鳥は先に事務所を出た。 「走りに行こうかな」  しばらく走りに行っていない。通学のみ。もうあのランエボも出没しない。アルバイトへの気持ちも切り替えられた。走りたい気分――。走ってスッキリしたら、彼の部屋に行こう。  MR2のキーを握りしめ、心躍らせながらガレージに入った。 「小鳥」  彼が追いかけてきたような息づかいで、後ろにいた。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2652人が本棚に入れています
本棚に追加