28.ママに似てきた?

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「どうしたの。あ、私、今夜は走りに行こうと思っているんだ。翔兄もどう?」  男とか女とか、新しい関係でしばらく『純粋なダブルドライブ』はご無沙汰だった。彼の部屋で二人きりも素敵だけれど、いままでそうしてきた『一緒に走る』もいい。  遠い岬でも、しまなみ海道の高速でも、夜景が綺麗な三坂峠でも。今日は彼と車を並べて遠くに行きたい。ついたところで、どちらかの車で並んで座ってずっとお喋りしたい。夜食を買っていこう。大好きなおにぎりとか、コンビニのチーズケーキとか。ドーナツもいいな。そんな『いままでの夜』も大好き。それがしたい。  なのに目の前で彼が申し訳なさそうに目を逸らした。 「今から瞳子に会えることになったんだ」 「そ、そうなんだ」  やはり心穏やかではなくなる。それでも彼は帰ってくると解っている。ただ、そこで瞳子さんが本気で翔兄に『いまでも貴方が好き、愛している』と言い出すのなら、翔が断ると信じていても、どうやって彼女に諦めてもらうのだろうと――。  あの日、小鳥を睨んだ彼女の妬ましい視線が忘れられない……。  彼女はいまでもきっと『いまでも翔はひとりだから、きっと受け入れてくれる』と思っている。瀬戸田という男にそう言い放って、それを頼りにして彼女はあの日、翔の部屋に飛び込んできた。  好きな男にその気がなくとも、他の女性から強烈な気持ちをぶつけられること。ただそれだけのことが嫌な気持ちにさせる。  ――これが、女の気持ち。小鳥は初めて噛みしめている。彼を好きなだけで、彼が自分のほうを愛してくれているとわかっていても。自分にも女としての嫌な気持ちがあるんだと。
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