28.ママに似てきた?

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 琴子母も、英児父の元恋人にこんな気持ち。感じたのかな。どうしたのかな。  よく知っている母の微笑みを思い浮かべる。  小鳥は噛みしめ、その嫌な味がするものを飲み込んだ。 「いいよ。私、ひとりで行ってくる。翔兄、いってらっしゃい。でも……明日、マンションに行ってもいい?」  翔は黙っている。背が高い彼が上からじっと小鳥を静かに見下ろしている。またなんとも言えない眼差しを見せている。  恋人になってもわからない。その目、なに? 怒っているのか、呆れているのか、困っているのか。良く解らない大人の目。 「一緒に来ないか」  目を丸くして、小鳥は彼を見上げた。 「え? あの、えっと私、邪魔……」 「言い方が悪かった。一緒に行こう」  今度は小鳥が言葉を失い、ただ彼を見上げるだけに。翔は小鳥と一緒に行きたいと申し出ているのだ。 「と、瞳子さんは、嫌なんじゃないかな」 「いや。連れてきてもかまわないと言ってくれている。彼女も小鳥に会いたいと言っている」  衝撃を受けた。別れた彼を取り戻したいと思っている彼女が、いまの恋人である小鳥と翔を目の前にして話したい?  それって。それって。もしかして『彼を返して』とかいう挑戦状?  噂でよく聞く『修羅場』というところに連れて行かれるのだろうかと、小鳥は冷たい夜空の下で戦慄いた。
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