2654人が本棚に入れています
本棚に追加
「瞳子のこと、すごく傷つけていたと思うよ。小鳥はあの時の俺を見守ってくれていたから、俺としてもこのケジメは見届けて欲しいというか……」
だから『一緒に来て欲しい』と言ったのかと、小鳥もようやく納得した。
「うん。わかった。黙ってみてられるよ。いつものように思わず首を突っ込むとかしないから」
「あはは。別に、小鳥が俺と瞳子の話し合いを滅茶苦茶にするだなんて思っていない。でも……瀬戸田とのことは、俺と瞳子は龍星轟にも小鳥にも申し訳ないことをしたと思っているんだ」
瞳子がそれをいちばん気に病んでいる。彼女にも詫びるチャンスをくれないか。最後に翔はそう言った。
「着いた。あのカフェだ」
和カフェで、あまりにも町並みに溶け込んでいて今まで小鳥も気がつかなかった小さなカフェだった。
温泉街の周辺町、そこが翔と瞳子さんが育った周辺。実家が近いことも二人を仲良くさせたのかなと思うぐらいに、二人の実家が近かった。
✿・✿・✿
カフェに入ると、観光客や地元の女性客でわりと混んでいた。
いちばん奥の窓際のテーブルにその人がいた。
奥なのに翔がきょろきょろせず迷わずに突き止めたところを見ると、そこが恋人時代の指定席だったようだ。
そこに物憂げに宵闇に浮かび上がる温泉街を見つめる女性がいた。
今日、日中は父に呼び出されて赤ちゃんと街中まで出向いて、また夜に元カレと約束して出てきてくれた。でも今度はひとり。赤ちゃんがいない。実家に預けてきたようだった。
その人を見て、小鳥はちょっと哀しくなる。この前、翔の部屋で感情的になっていたあの気迫が見られない彼女は、とてもくたびれて見えた。
最初のコメントを投稿しよう!