3.お兄ちゃんのマンション

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「お兄ちゃん。私もそう思うよ。誕生日だからなにかをしなくちゃとか、別にいいよ。今日も父ちゃんに言われたんだ。もう大人になったから誕生日の祝いはしない。これからはその日は自分が一緒にいたいと思った人間と過ごしたり、自分のための時間だと思って歳を重ねていけって」 「社長が、そんなことを」  隣にいる大好きな彼。やっと想いが通じた彼の大きな手を、小鳥から手にとって握りしめた。 「今夜だって、こうしてお兄ちゃんと二人きりでいられるなんて嘘みたい。私、これだけでドキドキして、でも嬉しい。お兄ちゃんが私になにかをする日じゃないよ。私がお兄ちゃんと一緒にいたいの。だからお兄ちゃんがいるところに、私が行くね。一緒にいてって私から言う」  小鳥を見つめたまま、固まっているお兄ちゃんの顔がある。思わぬことを言われたと、驚いているような顔の。 「えっと、私の独りよがりすぎるかな」  人の気持ちも考えないで押しかけていくように見えたのかと、不安になった。  翔がゆっくりと頬をほころばせると、小鳥は隣の椅子にいる彼に引っ張られ、胸元に強く抱きしめられていた。 「小鳥はやっぱり小鳥だな。来年も一緒にいような」 『うん』と彼の腕の中、嬉しくて顔を上げると、ふっと柔らかいものが小鳥の唇の端に。  唇の端に、熱くて柔らかい感触。でも熱く濡れる感触も。  すぐに中を侵さない、優しいキス。なのに翔は唇の端でも、そこを静かにゆっくりと吸った。激しくはないけど、じっくりとしたその愛撫に小鳥もつい吐息を漏らしてしまう。 「しょ、しょう……にい」
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