30.小鳥と次にやりたいこと

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 八年も付き合ったのに、空気みたいになって、傍にその人がいるのに、結局自分たちがそれぞれが好む生活を隣でしていただけ。そう翔が付け加えた。 「ほんとね。なにもかも平行線だったね。翔は車が好きで外に出て行くばかりだったし、私は素敵な日常を自分専用の空間に蓄積していくだけで。ただ同じところにいて、ただ男と女がすることをしてきただけ」  また、彼女が小鳥を見た。 「目が生きているもの、翔の目がね。これでも八年も付き合ったから違いが判るのよ」 「目が生きている?」  小鳥にはわからない。ずっと前から彼の目は同じで変わったなんて思ったことがない。女として未熟ってこと? 「龍星轟という世界にいると目が生きるの。たぶん小鳥さんには当たり前の、毎日よく知っている目なのよ」  生きている彼を毎日見てきたから当たり前。違いなどわかるはずもなかったらしい――。  最後に瞳子さんが、珈琲カップに視線を落としながら、泣きそうな声で言った。 「でも。わかる。あの社長さんと、そのお嬢さんだもの。翔でなくても、私だって……。惹かれるもの。でも私のほうが素晴らしいとあの時は……」  それきり。彼女は涙を堪えるように黙り込んでしまった。  窓の外は宵闇にほんのりと浮かび上がる道後本館、湯浴みに行く半纏と浴衣姿の観光客が通り過ぎるのが見え始めた。  翔ももうなにも言わなかった。そして彼女も。  八年の春に区切りをつけた男と女が語りたいものは、もうなにもないようで。  これが『ピリオド』の瞬間なのか。  自分のことではないけれど、やっぱり小鳥は泣きたくなった。   ✿・✿・✿
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