31.愛シテアゲル

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 きっと。きっと。お兄ちゃんのことだから、家探しをしている時から、もう小鳥のことを考えながら決めていたのかもしれない。  突然じゃない。お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに、三十歳の男が考えることを考えて準備をしてきただけの……。  なのに。噛み合わなかった。同世代の女に言えば、喜んでくれるだろう申し出も、十歳年下のまだ学生である彼女には喜ぶ前に戸惑いの種になるだけの……。  早まったと肩を落としてボンネットに座っている彼の真ん前に向かい、小鳥は翔を見下ろした。 「お兄ちゃん。ごめんね。嬉しいよ」  だけれど小鳥の返事は『すぐには答えられない』だった。 「いいんだよ、小鳥。でも、じゃあ、予約な」  この前はカラダの予約。今度は将来の予約?   彼女が今の自分のようになるまでは、まだ十年かかる。その間、本当にふたり一緒にいることが出来るのか。翔の目にそんな不安を見たような気がした。  小鳥はネルシャツのポケットに持っていたものを取り出す。 「翔兄、これ……」  それをボンネットで力無くうつむいている彼に、手のひらに乗せて見せた。彼もびっくりして小鳥を見上げてる。 「これは……」 「うん。お兄ちゃんのリングだよ。これならいつも身につけていられるでしょう」  彼の首に革ひものチョーカー。リングだけじゃない。リングの隣に『カモメのチョーカートップ』。小鳥はそれを探していた。だからすぐに彼に返せなかった。 「父ちゃんがこうしているんだよね。龍の婚約指輪。整備士で車に傷を付けないようにするために、指につけられないから、お母さんがいつも身につけられるようにってチョーカーにしたんだって」
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