31.愛シテアゲル

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「社長がいつも首にしているあれ。そうだったのか」 「そうだよ。他に方法がないか私、探したんだけれど……。やっぱりこれしか思い付かなかった」  両親がしているように、結局、自分もそうしたかったのかもしれない。  小鳥はチョーカーの留め具を外すと、目の前で戸惑っている翔の首にそれを付けようとする。 「翔兄。まだまだお兄ちゃんに追いつけない、十年も後を歩いている私だけど……」  彼の首の後ろで、小鳥はパチンと留める。  男っぽい鎖骨のところで、初めて銀色のリングとカモメが揺れた。 「翔兄。約束なんかしなくても。これから毎日、ずっと十年。それからももっともっと。私、翔兄を愛シテアゲル」  一緒に暮らすとか、結婚とか、いまはまだわからない。だけれど、今から彼に精一杯できることは、彼をめいっぱい愛していくこと。それを続けていくこと――。  それを誓うように、小鳥から彼の唇にチュッと小さなくちづけをした。  ボンネットに座っている翔は上から女の子にキスをされて、呆然とした顔。そっとキスした跡に触れて、ため息を落としている。 「小鳥、あのな」  ふと気がつくと、またあの怒ったような顔で下から睨まれていた。  え、どうして? やっぱりまた子供っぽかった? 大人は確実性のあるライフプランを目安にパートナーと生きていこうとしているのに、小鳥はただただ不確かな気持を口にするだけだから? 「この前から。小鳥……。俺、思っていたんだけれどな」  ボンネットに腰をかけていた彼がすっくと立ち上がる。あの涼やかな眼差しが、今度は真上から小鳥に注がれる。この前と同じ、ちょっと怖い目。
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