31.愛シテアゲル

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「う、うん。えっと、その、やっぱり子供っぽい? 私」 『違う』。小さくそう呟いた彼が、小鳥を勇ましく抱き上げた。  背の高い、逞しい筋肉を携えている長い腕に腰を抱かれ、小鳥のつま先は軽々とアスファルトから浮いている。 「きゃ、え、なに」  そのまま、今度は小鳥がスープラのボンネットに座らされた。  しかも小鳥を囲うように、彼の長い両腕がボンネットにドンと強くついた。 「え、翔兄……? なに怒っているの? この前から私がなにかいうと、なんか怖い顔するよね」  その翔の怖い顔がゆっくりと小鳥の鼻先に近づけられる。 「生意気なんだよ」  やっぱり。怒っている! 簡単に綺麗事ばかり子供っぽい発想しか口から出てこないから怒っている!?  ボンネットの上、逃げられないよう両腕に囲われて、怖い顔がじりじりと小鳥に迫ってくる。小鳥も逃げられないけれど、両手を後ろについて背を反ってしまう。  最後。小鳥の身体がボンネットに倒れそうになったその時――。倒れないよう翔が背を抱きとめてくれる。 「生意気なんだよ。愛シテアゲルなんて、十年早い」  ごめんなさい。うん、生意気だったね。そう謝ろうとしたら、そのお喋りな口を止められるように、強く塞がれ吸われていた。 「しょ、う……?」  と呟くのがやっと。彼の唇が激しく、何度も息継ぎをしては、いつまでも小鳥の口元を愛してくれる。珈琲の匂いが残る舌先が、唇も中も熱く奥まで愛撫してくれる。
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