3.お兄ちゃんのマンション

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 前触れもなく、いきなり。心の準備がまだ……。ううん、どんな心の準備だって今夜は役に立たない。翔兄が触れただけで、きっと小鳥のなにもかもが大慌てで大騒ぎにしかならない。  五日前、初めて知った大人のキス。味も感触も、やり方も。もう体験済みだから、どうキスを交わせばいいかわかっているはずなのに。小鳥はなにも出来ず、今夜も彼にされるまま。  そして翔も。五日前はあんなに激しく小鳥の中に入ってきたのに、今日は唇の端だけを吸って、舌先でなぞるだけ。  でも、それだけでも、小鳥の身体に甘い痺れが駆けめぐって、もう気が遠くなりそうだった。 「あの印、まだ残っているのか」  彼のキスが耳元に移る。抑えた声の囁きが熱く、耳たぶを震わせる。そのくすぐったさに、とろけてしまいそうになりながら、『うん』となんとか頷いた。 「まだ、あるよ。だいぶ薄くなっちゃったけど……」  そう答えると、翔の手が小鳥のシャツの下へとくぐっていく。 「あんなに強く吸ったから、痛かっただろう。でも、今日まで残しておきたくて」  彼の予約の痕。他の男が見てしまうなんてことはないけれど、それは歳が離れている小鳥を自由にさせてくれる余裕とはうらはらの、彼なりの心配が顕れている痕。  それを確かめたくて、安心したくて、彼の手が急いでいる。忙しく小鳥のデニムパンツからタンクトップの裾を引っ張り出す。丁寧で慎重な翔兄らしくない乱し方……だった。  そんなに心配しなくても……。確かに同世代の男子といることは多いけど、お兄ちゃんが一番なのに。そう伝えたい。 「痛かったよ。でも、嬉しかった。ハジメテのキスマーク。どんな時もすぐそばに翔兄がいてくれるみたいで……」
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