32.カラダも生意気

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 だけれどあちらの弁護士にも、こちらの痛いところをつかれた。元はと言えば、そちらの従業員と関係していた女性が不誠実だったからではないですか、公にするなら証言していただいてもいいんですよ、とか。立ち直ろうとしている瞳子さんの結婚生活を脅かすような提案をしてくる。峠で同じように危険な運転をされたんですよね、そちらも道路交通法違反ではありませんかと。瀬戸田という暴走車から身を守るためといえば、正当防衛が認められるとは思うが、そこはひっそりと走っている走り屋には辛いところだった。  最後、言い分を述べあった後。互いの弁護士の調整により、『示談』となった。保険屋が改めて監査に入り、そして瀬戸田という男はぶつけた被害者ひとりひとりに慰謝料を払うことになった。  小鳥もとうぜん受けることになった。思ったよりその金額が高めだったが、弁護士双方で妥当とした値らしい。  卑怯な男は最後まで卑怯。小鳥は怒りを抑えていた。  瀬戸田という男は、一度も龍星轟に姿を見せなかった。  でも、翔が当たり前のように、空港から飛んでいくジェット機を見上げながら呟いていた。 『あの瀬戸田という男は、そういう男だ。来るとは思わなかった』と。  それでいいのかと小鳥は納得できなかったが、武智専務が小鳥を宥めるように言った。 『卑怯な男ほど謝ったりしないよ。逃げて知らぬふりをする。だからあいつは卑怯認定。またあのツラを見たら、俺も今度は手加減しない』  秀才眼鏡のおじさんだけれど、このおじさんも元ヤン。密かに隠している荒い気性がふいに表に出てしまうほど、武ちゃんも怒っていた。  そんなどうしようもない大人がいっぱいいる。小鳥は初めてそれを知る。
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