32.カラダも生意気

7/8

2648人が本棚に入れています
本棚に追加
/316ページ
 子供の頃に唄ったことがある。赤い実を食べたからでしょう――。そう答えようとした時にはもう、小鳥の唇に苺が一粒、押し付けられていた。 「赤い実を食べた、だったよな。小鳥はどうして甘い匂いがするんだろうな」  そういいながら、苺の先で唇を意味ありげに彼がくすぐる。 「ほら。小鳥。好きだろう」  今夜も苺の匂いがするカラダを、俺の身体に寄り添わせて。 「ほら。食べろよ」 「……なんか、翔がするとえっち」 「そのつもりだよ。ほら、」  なにを考えているのかわかっていて。小鳥はそっとその苺の先に舌を這わせてからぱくりと頬張った。 「一度でいいから、小鳥を苺漬けにしてみたいな」 「ベッドが真っ赤になっちゃうよ」  お兄ちゃんの顔をした王子様が、いまはたっぷりと色っぽい匂いを放つ男になってきた。  翔は小鳥と愛しあうことを『抜群』という。そんなに興味がなかったのに俺はどうしてしまったんだろう――と、よく呟く。  夜に彼と肌と肌を合わせることは、もう自然なこと。 「この苺、甘いよ。翔」  苺の香りが残る唇で、彼の唇を小鳥から奪った。  もう彼は、戸惑ったように硬くはならない。いまの彼はもう、小鳥が触れたそこに熱く溶けてくれる。 「本当だ。いい苺だったな」  お返しに彼が小鳥の奥まで吸って愛してくれる。小鳥は苺が大好き。いつも苺の匂いがすると――。  初夏が近づいてきて、彼の服も薄着になる。男っぽい彼の鎖骨に銀のリングとカモメのチョーカーが揺れている。  キスをする向こうの窓辺には海。そして少し向こうに空港が見える。  龍星轟の近くに、彼が引っ越した。今度も海が見える部屋。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2648人が本棚に入れています
本棚に追加