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子供の頃に唄ったことがある。赤い実を食べたからでしょう――。そう答えようとした時にはもう、小鳥の唇に苺が一粒、押し付けられていた。
「赤い実を食べた、だったよな。小鳥はどうして甘い匂いがするんだろうな」
そういいながら、苺の先で唇を意味ありげに彼がくすぐる。
「ほら。小鳥。好きだろう」
今夜も苺の匂いがするカラダを、俺の身体に寄り添わせて。
「ほら。食べろよ」
「……なんか、翔がするとえっち」
「そのつもりだよ。ほら、」
なにを考えているのかわかっていて。小鳥はそっとその苺の先に舌を這わせてからぱくりと頬張った。
「一度でいいから、小鳥を苺漬けにしてみたいな」
「ベッドが真っ赤になっちゃうよ」
お兄ちゃんの顔をした王子様が、いまはたっぷりと色っぽい匂いを放つ男になってきた。
翔は小鳥と愛しあうことを『抜群』という。そんなに興味がなかったのに俺はどうしてしまったんだろう――と、よく呟く。
夜に彼と肌と肌を合わせることは、もう自然なこと。
「この苺、甘いよ。翔」
苺の香りが残る唇で、彼の唇を小鳥から奪った。
もう彼は、戸惑ったように硬くはならない。いまの彼はもう、小鳥が触れたそこに熱く溶けてくれる。
「本当だ。いい苺だったな」
お返しに彼が小鳥の奥まで吸って愛してくれる。小鳥は苺が大好き。いつも苺の匂いがすると――。
初夏が近づいてきて、彼の服も薄着になる。男っぽい彼の鎖骨に銀のリングとカモメのチョーカーが揺れている。
キスをする向こうの窓辺には海。そして少し向こうに空港が見える。
龍星轟の近くに、彼が引っ越した。今度も海が見える部屋。
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