33.ラスボス父ちゃん

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33.ラスボス父ちゃん

 クローゼットの隅っこに、懐かしいワンピース。  サファリポケットのシャツ衿の。衿がすり切れて、裾もすり切れて、お蔵入り。  でも大事な、大事な想い出のワンピ。彼からのハジメテのプレゼントだったから。    海が見える部屋、長い姿見で今日のお洒落を小鳥はチェックする。  大人っぽい、カシュクールの黒いワンピース。胸元にはちらりと白いレエスがのぞくインナー。  柔らかい生地が二十三歳になった小鳥のボディラインを、大人っぽくくっきりと醸し出す。これも恋人の翔からのプレゼント。 「ジャケットは白がいいかな。それとも生成のリネンがいいかな」  彼が東京へ出張に行くたびに、小鳥に似合う洋服をひとつ見つけてくるのが恒例になった。これはその新しい一枚。  相変わらず、彼が選んだ服は誰からも『小鳥に似合う』と好評になる。 「それにしても。なんか、だんだんセクシーになっていくような?」  もうハタチになったばかりの女の子ではない。それから三年、恋人の彼と濃密に愛しあう日々を送ってきて、小鳥はもう子供ではない。  だからなのか。彼が選ぶ服もクールで大人っぽくなってきた。そして、それが彼からのプレゼントと言わずとも誰もが『似合う』と言ってくれる。  これって彼の願望? と思ってしまうこともあるけれど、そうでもないよう。  でも父だけが、あまりいい顔をしない。いつものデニムにシャツはどうしたんだ――と聞くことも度々。実家にいる時はなるべくその恰好をするように心がけていた。 「ん? 今日もそのほうがいいのかな。でも、大事な話をしにいくんだし……」  ラフな娘ではなくて、今日はきちんと大人の自分で行くべきと小鳥は言い聞かせた。  
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