2648人が本棚に入れています
本棚に追加
/316ページ
33.ラスボス父ちゃん
クローゼットの隅っこに、懐かしいワンピース。
サファリポケットのシャツ衿の。衿がすり切れて、裾もすり切れて、お蔵入り。
でも大事な、大事な想い出のワンピ。彼からのハジメテのプレゼントだったから。
海が見える部屋、長い姿見で今日のお洒落を小鳥はチェックする。
大人っぽい、カシュクールの黒いワンピース。胸元にはちらりと白いレエスがのぞくインナー。
柔らかい生地が二十三歳になった小鳥のボディラインを、大人っぽくくっきりと醸し出す。これも恋人の翔からのプレゼント。
「ジャケットは白がいいかな。それとも生成のリネンがいいかな」
彼が東京へ出張に行くたびに、小鳥に似合う洋服をひとつ見つけてくるのが恒例になった。これはその新しい一枚。
相変わらず、彼が選んだ服は誰からも『小鳥に似合う』と好評になる。
「それにしても。なんか、だんだんセクシーになっていくような?」
もうハタチになったばかりの女の子ではない。それから三年、恋人の彼と濃密に愛しあう日々を送ってきて、小鳥はもう子供ではない。
だからなのか。彼が選ぶ服もクールで大人っぽくなってきた。そして、それが彼からのプレゼントと言わずとも誰もが『似合う』と言ってくれる。
これって彼の願望? と思ってしまうこともあるけれど、そうでもないよう。
でも父だけが、あまりいい顔をしない。いつものデニムにシャツはどうしたんだ――と聞くことも度々。実家にいる時はなるべくその恰好をするように心がけていた。
「ん? 今日もそのほうがいいのかな。でも、大事な話をしにいくんだし……」
ラフな娘ではなくて、今日はきちんと大人の自分で行くべきと小鳥は言い聞かせた。
最初のコメントを投稿しよう!