33.ラスボス父ちゃん

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「あん、だめだよ、翔……。い、いかなくちゃ……」  このままじゃ、いつもそうしているように、全部脱いで彼に抱きつきたくなってくる。ぜんぶあげるから、お兄ちゃんの好きにしていいから、いつものように強く意地悪に愛して――と、飛びついていた。  翔じゃない。小鳥の肌が上気する。はあはあと儚げに息を切らして、理性が壊れそうになるのを必死で堪えているから、じんわり汗が滲んでいる。  かすかに、お気に入り石鹸の花の香りが立ち上った。  その香りを彼の鼻先が堪能している。 「小鳥の匂いだな」  満足そうにして、やっと肌を愛撫する唇を離してくれた。 「わかっている。急ごう」  最後に、軽いキスを首元と耳元と、そして唇にちゅっとしてくれる。 「似合っているよ。俺がそう思って選んだんだから。でも似合いすぎる。おまえ、顔はまだあどけない小鳥なのに、身体はなんでこんな……」  またその先を言わない。優等生のお兄ちゃんはそういうことはたまに濁すけれど、ベッドの上では意地悪兄貴になって、他の人が想像できないだろう言葉で男になる。 「もう。わかったよ。他のものを着ていきます」 「いや、いいよ。ジャケットでちゃんと隠せよ」  あれ、割とあっさり引き下がったなと思ったら。 「夜、俺が楽しむから」 「わ。翔がいうとすごくえっち」 「そのつもりだよ」  変わらずのやり取りに、彼がやっと余裕の笑みを、八重歯をのぞかせて見せて部屋を出て行った。  着崩れたカシュクールのワンピースを、再び胸元で合わせて、とかれたリボンを結ぶ。 「まったくもう~。怒っているふりして、結局、私のことからかっているんじゃん」
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