34.お嫁に行かせて!!

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「オカミさん……」  そして琴子母は、涙に濡れるスミレにも丁寧に頭を下げている。 「息子をよろしくお願いいたします」 「琴子お母さん……」  頭を上げると、琴子母はいつもの愛らしい笑顔。そして小鳥を見た。 「小鳥。女はね、死ぬほど好きで愛せる男に出会えるのが幸運なの。愛されるよりね」  母の肌が、艶めいて見えた。何歳も若返ったように見えて、小鳥はぼう然とする。子供だった頃の、英児父が可愛い可愛いと言って追いかけ回していたあの若奥さんの顔。  そして小鳥も笑顔で頷く。 「知っているよ。だって私、もう死ぬほど好きで堪らないの」 「知っているわよ。ずうっと前からだったでしょう」  優しい母の手が、背が高くなった小鳥の頬をつつんでくれる。  そうだ、愛してあげたい人がいるかぎり、何度だって父ちゃんに立ち向かうつもり。母の優しい手に包まれて、勇気が湧いてくる。  おめでとう、小鳥。  おめでとう、聖児。  矢野じいと武智専務も祝福してくれる。スミレも今日は母に迎え入れてもらえただけでも、ほっとしたようで笑っていた。 「私、おばあちゃんになるのね。楽しみ。だって」  賑やかなのは、幸せな証拠。母の口癖。 「これから、もっともっと賑やかになって、いちばん嬉しいのは淋しがりやのお父さんに決まっているのよどんな顔で帰ってくるか楽しみに待っていましょう」 『さすが琴子』と、矢野じいが大笑いした。    ✿・✿・✿    もう滅茶苦茶なご挨拶になってしまい、ふたりはそのまま気晴らしのドライブにでかけた。  話し合ってもいないのに、翔のスープラは長浜に向かっていた。
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