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まるで小鳥の心の中がなにもかも見えているかのように。
こんな日。おじいちゃんに会いたいだろう。彼がそう見透かしている。
実際に、そんな気分だった。龍星轟も彼との部屋も離れて、遠く離れて、どこかでクールダウンしたい。
そんな時に浮かぶのは、伊賀上おじいちゃんの家。いつも泊まらせてくれる二階の部屋――。
やがて、伊賀上マスターの店『シーガル』が見えてきて、翔がそこの駐車場に入ってスープラをとめた。
でも小鳥はそれでいいと思った。ひとまず潮の香にあたりたい。
強くなってきた日射しも夕に向けて柔らかになって、優しく瀬戸内を輝かせている。
砂利の駐車場。おじいちゃんがお店を開けなくなったから、雑草もたくさん。でも車のドアを開けると磯の匂い。
子供の頃から両親に連れられて、この店に良く来た。遠い記憶は朝。どうして朝、この店に来ていたのか良くわからないけれど、おじいちゃんがだっこしてくれて、そして『いちごミルク』を作ってくれた。
小学生の時は、龍星轟の走り屋仲間の集まり場になった。週末、遠くまで走りに行く英児父やおじさん達を待って、このお店の裏にある磯辺で弟たちと遊んだ。矢野じいと釣りもした。
ふたりで車を降りて、駐車場すぐの海辺に立った。
石垣だけの磯辺だから、柵から下を覗くと小波が打ち寄せている。
やっと落ち着いてくる。この潮の香が、潮騒が、元の場所に帰してくれる。いつもそんな気持ちになれる場所。
「翔、ごめんね。なんか、やっぱりうちって騒々しいでしょう」
とにかくドタバタしている家庭だと自分でも思っている。
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