4.ハジメテの夜

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 大学を卒業して龍星轟に来たばかりの時は、勉強ばかりしてきたいまどきの細身のお兄さんだと思っていた。  それから何年かして、整備という仕事柄、力がいるだろう腕が逞しくなっていくのを小鳥は見てきた。  だけれど長身のその肉体は、いつも整備服に包まれて隠されていた。彼をずっと見てきた小鳥の目には、腕が逞しくなってきた細身の背が高いお兄ちゃんぐらいの。 「知らない男を見るような、そんな顔するな。知らない男に抱かれるような、そんな顔」  俺が知っている小鳥の眼差しで、いつものように俺を見て欲しいのに。彼がそっと囁いた。少し怒った顔をするなんて……。まるで小鳥が知らないお兄さんに出会って、その男にのぼせあがっているのが許せないような顔をしている。 「いまの私、翔兄を見て、ぼうってしているんだよ」  そんな意味不明な嫉妬心を見せた翔兄を思って、ついに小鳥は自分から彼の首に抱きついた。 「どうしよう。翔兄、もう私、どうしよう。だってお兄ちゃん、本当に素敵なんだもん」  先程までの恥じらいは、緊張はどこに行ったのだろう? 大好きなこの人に、自分がどれだけ大好きか知って欲しいと思った途端、小鳥の中から熱く溢れて流れ出ていく勢いで、彼を抱きしめている。 「好き、翔兄。大好き」  素肌の男に抱きついて、小鳥はつま先を立てて、彼の唇にキスをした。  その時、翔兄がまた。身体を硬くした。気のない女の子が抱きついてきて、困った身体の反応……、いままでは。でも、いまはもうそうではないと思いたい。小さな女の子だった小鳥からの『お兄ちゃん大好きのキス』が突然で驚いているのだって。
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