1.今夜おいで

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『小鳥って名前、父ちゃんは気に入っているんだよ。大内のお祖父ちゃんが、琴子にプレゼントした眼鏡ケースが小鳥だろ。祖父ちゃんが、琴子は小鳥と言って選んでくれたんだってよ。母ちゃん、それからずうっとあの眼鏡ケースを大事に使っているだろ。死んだ父ちゃんが選んでくれた想い出のプレゼントだからよ。コトコとコトリ、可愛いママさんと可愛い赤ん坊でお似合いだった、お前達。ふたりが俺の龍星轟に来てくれて、父ちゃん、すんげえ嬉しかったなあ』 『お母さんが大事にしているあの可愛いケースの小鳥のこと?』 『そうだよ。祖父ちゃんは娘の琴子のことは大人になっても『いつまでも可愛い小鳥』だって、父親として娘のこといつまでも可愛く思って選んだんだろ。父ちゃんも会えなかった大内の祖父ちゃんのその気持ち、同じ気持ちを持つ父親になるぞ。と、お前を抱いた時に思ったんだ。そういう気持ちにさせてくれた祖父ちゃんからのプレゼントにしてあげたかったんだ』 『大内のお祖父ちゃんからの、プレゼント。小鳥に?』  そうだ。と、父が目尻にシワを寄せるこの上ない優しい笑みを見せてくれる。いつも怖い顔をして車屋をやっている親父さんがそんな顔を見せる時は、子供心にもとても愛されていると感じることができた。  そんな想い出。 「おはよう」  毎朝のリビングに出ると、制服姿の弟ふたりは既に食事中。父の英児も食後の珈琲を片手に新聞を読んでいる。母の琴子も、眼鏡をかけた朝の姿でキッチンに立っている。いつもの朝。  小鳥も自分の席について、用意されている朝食を食べ始める。
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