5.ハジメテの子が、ハジメテ

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5.ハジメテの子が、ハジメテ

「ご、ごめんなさい。お兄ちゃん。ごめんなさい」  せっかく素敵に抱き合っていたのに。大事に大事に、優しくリードしてくれていたのに。  私、まだ子供なんだ。素敵なムードになんなく溶け込めるような大人の女じゃない。  結局、すごく怖かったんじゃない。  悔しくてメソメソしていると、ベッドの上からふっとした笑い声が聞こえた。 「おいで」  涙を拭う小鳥の目の前に、大きな手。見上げると、よく知っているお兄ちゃんの笑顔がそこにある。 「早すぎたかな。ごめんな。誕生日にそうなったほうが女の子は嬉しいのかと思って。無理押ししたな俺」  小鳥は首を振る。 「ううん。私、早く、早く、お兄ちゃんのものになりたかったんだもの。子供じゃないって……私……」  また涙が溢れてくる。今度は翔の手は、小鳥を待たずに腕を掴んでベッドへと引っ張る。  その力につられ、小鳥も立ち上がってベッドの上へと戻った。  ベッドヘッドにある枕を立て、翔がそこに背を持たれ寝そべった。 「少し、休もう」  その隣へと、誘われる。  彼の隣に寄り添うように寝そべると、肌がくっつくように抱き寄せられる。小鳥の肌を静かにブランケットで包んでくれた。  もうなにもしないよと言っている様だった。 「そんなに急がなくてもいいんだ。少しずつ慣れていこう。まずはこうして一緒に暖まることから、かな」 「……怒っていないの。私、翔兄を突き飛ばしたんだよ」  どこか哀しそうな目を彼が見せたので、小鳥の胸が痛む。 「正直に言うと。俺も、怖かったんだよ」 「え、お兄ちゃんが?」  やっと笑顔で小鳥を見つめ、うんと頷いてくれる。 「俺も。初めてなんだよ」
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