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「初めて? えっと、だって、お兄ちゃんは。その、大人で経験あるじゃない」
『瞳子』という恋人がいたことだって、小鳥は知っている。学生時代から八年もつきあっていたんだから、何度も愛しあってきたのだろうに。
そっと首を振った翔が、枕を背に抱き合って寝そべる小鳥を、ぎゅっと愛おしそうに抱きしめたかと思うと、どこか気恥ずかしいように目線を逸らした。
「初めての子を抱くのが、初めてってことだよ」
それを聞いて――。小鳥もハッとする。
「つまり、それって」
翔がため息をついて、バツが悪そうに黒髪をかく。
「バージン相手は、初めてってこと」
「そ、そうなの!」
お兄ちゃんが何人の女性とつきあってきたか知らないが、少なくとも恋人だったあの人は『お兄ちゃんが初めての男性ではなかった』ということだったらしい。
「どんなふうに痛がるのか、我慢してくれるのか、わからなかったんだ。しかも、小鳥だろ」
「小鳥だろって……」
どういうこと? と、首を傾げた。
「小さい時からの小鳥を見てきたし、その子が大人になるまで、龍星轟の皆が大事に大事に見守ってきただろ。なによりも尊敬している社長が、いちばん大事に守ってきたことを知っているから。まるでそれを、俺の手が壊して突き破るみたいで。勿論、俺は小鳥とこれから一緒にいたいから覚悟はしている。俺だって、今夜は小鳥がどんなに痛がっても、大事に大事に抱いてやろうと思っていたんだけれど」
失敗したな。俺、結局、優しくなかったかもな。
小さく彼がため息を落とした。とても情けない顔で。
「翔兄、好き」
寄り添っている彼の胸に頬を寄せて、小鳥はその肌にそっとキスをした。
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