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――そうだった。いつのまにか、こうしてお兄ちゃんはとっても近い人になっていたんだ。この二年で、いつのまにか。
恋人と別れてしまってから二年。そして小鳥が免許を取ってから二年。お互いに『車が生活のど真ん中』にあるだけあって、小鳥が大学生になると夜は翔兄と過ごすことが多くなった。
二十歳まで、決して小鳥に手荒く踏み込んではこなかった翔兄。いつからなんだろう? 私のことを、『裸にしたいほど好きな女』だと思ってくるようになったのは?
そんな疑問がずうっとつきまとっていた。
「ご馳走様でした。じゃあね、翔兄」
もう門限もない。今夜の帰宅は日付が変わってしまった。お兄ちゃんが玄関で見送ってくれる。
「門限がなくなったとはいえ、たぶんオカミさんは、心配で待っているだろうな」
「きっとね……。うん、もう真っ直ぐ帰るよ」
「生意気な走りをして、目をつけられるなよ」
「もう、お兄ちゃんまで心配性だなあ。走って十分もしないところだよ。古い国道だしやんちゃなことしないよ」
小鳥自ら『やんちゃ』と言ったので、翔が笑い出してしまった。
「じゃあ。心配性なお兄ちゃんの、心配性なお守りに『やんちゃな小鳥もいいけれど、さらに女の子らしくなりますように』と願をかけておこう」
そう言って。彼が急に小鳥の手を握りしめた。小さな水色の箱に、銀色のリボン。何処かで見たことがある箱――。それを知って、小鳥は驚いて翔を見上げた。
彼が照れたのか目を逸らした。
「後で開けて、ゆっくり眺めてくれたらいい。おやすみ」
「お、お兄ちゃん?」
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