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玄関まで見送ってくれたのに、まだ小鳥が玄関のドアを開けて出て行ったわけでもないのに、彼はそのままリビングのドアの向こうへと姿を消してしまった。
え。こんなお兄ちゃん、ちょっと初めて? 小鳥は唖然としていた。
お兄ちゃん、おやすみなさい。と一声かけてから玄関を出た。
エレベーターを降りて、急いでMR2に乗り込んだ。
運転席に座っても、エンジンもかけず、小鳥はその箱を急いで開けた。
見なくてもわかる箱。でも信じられなくて。だって中身はそうとは限らない。この箱なら、ピアスかもしれないし、ネックレスかもしれないし、ブレスレットかもしれない。
なのに期待している自分はやっぱり女の子だと思った。その箱を見て、女の子が一番期待するもの……。
包みを助手席に放って、リボンも放って、白い箱が出てきて紙の蓋を開けて、最後にやっぱり出てきたキラキラな星が描かれているジュエリーボックス!
「待って。落ち着いて。そんなわけないじゃない」
車の中で一人、小鳥は馬鹿みたいに笑い飛ばした。
ばっかみたい。私ったら、こんな時だけか弱い女の子の発想になっちゃって。馬鹿みたい。
そんなこと、あるはずない。だって、まだ想いが通じて五日の、まだ二十歳になったばかりの子供みたいな女の――。
きっと最近集めているピアスやネックレスだと思って蓋を開けた。
箱の真ん中に。夜明かりに光る銀色のリング――。
「う、嘘。嘘だあ」
小鳥はMR2のハンドルに額を押し付けて脱力した。
「こんな私に、指輪……」
逆に泣けてきた。
もしかして。お兄ちゃんこそ、ものすごく力んでいたのかも?
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