6.お兄ちゃんに限って、そんなこと!

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6.お兄ちゃんに限って、そんなこと!

 新たな悩みがひとつ。『指輪、いつつけたらいいの?』  だって。うちの男どもに見られたら、うるさいじゃん!?  午後、雨が降る。  会えると思った花梨に会えなかった。学部が違うので、すれ違うと一日会えない日もある。  彼女に報告したいことも、教えて欲しいこともいっぱいあるのに。学食でも会えなかった。この日は堪え、小鳥はキャンパスを後にする。  駐車場まで傘なしで走った小鳥は、急いで運転席に乗り込む。 「やだな。今日は雨なんて」  羽織っていた紺色のジャケットが少し濡れた。袖に龍と星のワッペンが縫いつけてある。父親が経営する車屋の制服。車の運転をするようになると、父親が『俺が手入れする車に乗る娘なら、これを着ろ』と許してくれたものだった。  このジャケットを羽織って、同じロゴのステッカーを貼り付けた往年の国産スポーツカーを乗り回す『車屋の娘』。それはまたこの女子大ではことさらに目立つようで、小鳥は相変わらず大学生になっても校内では有名人のままだった。  キーをひねり、エンジンをかける。可愛らしい車に乗っている女子大生が多い中、親父世代が好んで乗ってきた90年代のスポーツカーのエンジンをふかす。  あちこちにカラフルでお洒落な傘。駐車場にいる女の子達が振り返る。だけれど小鳥がハンドルを回して発進させると、顔見知りは手を振ってくれ、知らない女の子達は笑顔で会釈をしてくれる。 『滝田先輩、いってらっしゃい』。  どこからともなくそんな声さえ、聞こえてくる。  車屋のお嬢さん、滝田さん。パパ達が乗っていたスポーツカーを走らせる『走り屋姉貴』――なんて、言われている。    大学は隣市の郊外にある。市街から通う子も多いが、バスや電車通学になる。車で通う子もいれば、この近くに下宿を構える子もいてそれぞれ。
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