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『へえ』と意外そうな顔をする宮本先輩。だが彼もふと眼差しを陰らせた。その手にはスマートフォンが。
「……花梨のやつ、最近、なにかあった?」
小鳥はドキリとした。昨夜、お兄ちゃんに払拭してもらった不安が蘇ってくる。
「いえ。なにも」
そして、嘘をついてしまった。先輩に。
「それならいいんだけどなあ」
いつもの陽気さで先輩が笑い飛ばす。
小鳥の心臓はドキドキしていた。目の前の、食えない先輩に悟られないよう素知らぬ顔をするのが精一杯。
この先輩こそ。花梨のハジメテの男性。そして花梨が恋している人。
先輩だって花梨を抱いたはずなのに。なのに二人は恋人同士ではない。
それには訳もある。この宮本先輩の実家は西の京といわれる山口市内にある、何百年も続いている老舗和菓子店。そこの跡取り息子という重ーい条件をひっさげている男子という……。
それさえなければ、国大生、イケメン(お坊ちゃんでお金持ち)、リーダーシップ抜群のモテ男なのに。女の子達は『いまだけ』ならときめくけれど、結婚は御免と口を揃える。
それをこの先輩は『俺は呪われている』と言ったりする。さらに口癖が『どーせ俺は見合い結婚。いまのうちに一緒に遊んでくれる女子大募集』だから、ほんと軽い。そこも花梨にとっては悩みの種のよう。恋する彼が『遊んでくれる子、誰でもカモン』なんて平気で言っている以上、自分もその一人なのだと彼女も思っている。
本当は、とてもとても好きなのに。小鳥はそんな花梨をずっとそばで見てきた。
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