6.お兄ちゃんに限って、そんなこと!

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 花梨の悩みはそこもある。なんとなく好き合って付き合って楽しいキャンパスライフ――の、つもりが、本気で好きになるとあんなに苦しむことになるだなんて。  自暴自棄にもなるのかな。まだ男性と付き合うようになったばかりの小鳥にはわからない。わかったつもりで言葉もかけたくない。役立たずだった。    お兄ちゃん、また聞いてくれるかな。  そう思いながら、カモメの鍵を手にする。今日はチャイムなしで鍵を開け、ドアを開ける。  というのも、駐車場に既にスープラが停まっていたので、先に帰ってきているとわかっていたから。  だが、玄関ドアを開け、小鳥は立ち止まる。彼がいつも履いているスニーカーの隣に、女性のブーツがある。かかとがない、でも、大人の女性が好んで選びそうな上品なデザインの――。  誰? 翔に兄弟はいない。女性の家族が来るとしたら母親しかいないはず。でも、お母さん達が選ぶような靴でもない。  嫌な予感がした。靴を脱いでリビングの廊下へと歩き始めた時、奥から囁くような翔の声が聞こえてきた。  リビングに入ると、彼のベッドルームが見えた。ドアが開いていて――。  まだ龍星轟のジャケットを羽織ったままの翔が、『赤ちゃん』を抱いている!?  だ、誰? お兄ちゃん。その子、なんなの?  しかも、部屋から女性が泣きさざめく呻き声まで聞こえてきた。  彼のベッドルームに当たり前のように入っていて。しかも、お兄ちゃんが大事に小さな赤ちゃんを抱っこしているだなんて――。異様な光景。  お兄ちゃん。なにかあったの? 私とこうなる前に、なにかあったの?
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