2648人が本棚に入れています
本棚に追加
花梨の悩みはそこもある。なんとなく好き合って付き合って楽しいキャンパスライフ――の、つもりが、本気で好きになるとあんなに苦しむことになるだなんて。
自暴自棄にもなるのかな。まだ男性と付き合うようになったばかりの小鳥にはわからない。わかったつもりで言葉もかけたくない。役立たずだった。
お兄ちゃん、また聞いてくれるかな。
そう思いながら、カモメの鍵を手にする。今日はチャイムなしで鍵を開け、ドアを開ける。
というのも、駐車場に既にスープラが停まっていたので、先に帰ってきているとわかっていたから。
だが、玄関ドアを開け、小鳥は立ち止まる。彼がいつも履いているスニーカーの隣に、女性のブーツがある。かかとがない、でも、大人の女性が好んで選びそうな上品なデザインの――。
誰? 翔に兄弟はいない。女性の家族が来るとしたら母親しかいないはず。でも、お母さん達が選ぶような靴でもない。
嫌な予感がした。靴を脱いでリビングの廊下へと歩き始めた時、奥から囁くような翔の声が聞こえてきた。
リビングに入ると、彼のベッドルームが見えた。ドアが開いていて――。
まだ龍星轟のジャケットを羽織ったままの翔が、『赤ちゃん』を抱いている!?
だ、誰? お兄ちゃん。その子、なんなの?
しかも、部屋から女性が泣きさざめく呻き声まで聞こえてきた。
彼のベッドルームに当たり前のように入っていて。しかも、お兄ちゃんが大事に小さな赤ちゃんを抱っこしているだなんて――。異様な光景。
お兄ちゃん。なにかあったの? 私とこうなる前に、なにかあったの?
最初のコメントを投稿しよう!