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大人のお兄ちゃんが、夜のドライブをする以外、なにをしていても小鳥は知ることもできなかった。でも小鳥は自分の目で見えているお兄ちゃんが全てだと信じていた。龍星轟で丸一日めいっぱい働いて、その後は仲間と車で走る。女性との付き合いはなし。ただし、小鳥とは兄妹みたいにして一緒にいることはある。それ以外は――。
でもそれも、小鳥の勝手な思いこみ? ううん、お兄ちゃんに限って、そんなこと!
「もうイヤなのよ! ダメなのよ!!」
翔兄の思わぬ姿に驚いたのも束の間。そのベッドルームから女性が飛び出してきて、小鳥はさらに驚き足が動かなくなった。
しかもその女性がこちらに一直線に向かってきて、小鳥とぶつかった。
長い黒髪を振り乱した涙の顔が、背丈がある小鳥を見上げた。
その女性を見て、小鳥は息を呑む。
そして彼女も――。
「こ、小鳥さん?」
「瞳子さん、どうして」
だが彼女は、大人になった小鳥を見て、憎々しい顔で翔へと振り返った。
「子供に手を出したの? それで私に帰れと言ったの! やっぱりこの子とこうなったわね!」
「誤解するな。小鳥のことは、おまえと別れた後からだ」
「違うわよ! 子供子供って翔は言っていたけれど、この子だってあの時から立派な女だったわよ! そうよ、あなたが大好きな車のこと、一緒に話してくれて、社長さんの娘さんで、そりゃあ、面倒がなくて楽よね!」
そして、彼女が髪を振り乱して叫んだ。
「こんな子がいなければ、私は結婚しなかったし、こんなに苦しまなかった! まだまだ翔と一緒にいた! あの頃の私に戻して!!」
頭の奥で、なにかが砕けるような感触。
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