6.お兄ちゃんに限って、そんなこと!

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 え。子供だった私を、瞳子さんは気にしていた?  もしかして、お兄ちゃんと瞳子さんが別れたのは、私も原因?  私の、せい――?  あの時、彼がMR2で狂ったようにスピードを出して怒りを吐きだしていた痛々しい夜を思い出す。  一緒にその痛みを分け合えたらいいのに。そう思い、小鳥は彼の傍にいた。その痛みを一緒に感じたいと。  でもあんなに彼を痛めつけた別れは、わたしのせいだったの?  小鳥が翔にまとわりついていなければ、二人は上手くいっていた?  あの時、お兄ちゃんの大事なものを壊したのは。私? 「いい加減にしろ。瞳子」  静かにお兄ちゃんが諭すと、彼が腕に抱いている赤ちゃんが急に泣き出した。 「お前、母親だろ。しっかりしろ」 「いや。もう帰らない。ここにいる! 翔と一緒にその子を育てる、いいでしょ」  なにがあったかわからない。でも、八年もお兄ちゃんと付き合ってきた女性の言葉は、まだ裸しかみせられない小鳥には衝撃的だった。 「小鳥!」  お兄ちゃんの声が背に届いた時には、小鳥はもう玄関ドアを開けて飛び出していた。  マンション側の路肩に止めていたMR2に乗り込むと、小鳥は強くアクセルを踏み込み、激しくふかした。  助手席に置いたスマートフォンが鳴り響く。でも小鳥にはもう聞こえない。ハンドルを大きく回し、アクセルを踏みタイヤをぎゅっと鳴らして国道へと飛び出した。    MR2のエンジン音が、今夜は空高く唸る。  どこに向かっているかわからなかった。ただアクセルを踏んで走っていた。  違う、違う。私じゃない。翔兄のあるべき幸せを壊したのは……。私、なの?  それに。車屋の娘だから、理解があって楽って……。子供の私を好きになってくれたのは、そういうことなの?
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