7.エンゼル、ごめんなさい

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7.エンゼル、ごめんなさい

 鳴り続けていたスマートフォンが静かになった。  目の前は曲がりくねった暗い峠道。いつのまにか、よく知っているよく走っている馴染みのコースを飛ばしている。  平日だからか、知っている車も見かけない。本当に夜道に一台。  いつもの道をたった一人で走っている内に、小鳥も落ち着いてきた。 「バカだな、私。お兄ちゃんが、そんなふうに思っていないこと、私がいちばん良く知っていなくちゃいけないし、知っているはずなのに」  落ち着いてくると徐々に、アクセルを踏む足が緩まってくる。  慌てて飛び出してきたことを、いまになって後悔する。訳があるでしょう、訳が。  でも。やっぱり元恋人が馴染んでいるみたいに彼の部屋にいるのは衝撃的。しかも、もう別れたはずの女性にいきなり噛みつかれて……。  正直いえば『だったら。なんで翔兄にずうっとしがみついていなかったの。信じて待っていてあげられなかったの。車のこと、少しでも歩み寄ってくれなかったの』。そう思う。  なのに、その考えにも至らず、飛び出していた。やっぱり子供だ。    もう少しで峠の頂き。ダム湖に到着する。そこの駐車場がいつもの溜まり場で、今夜も誰かいるかもしれない。  ひとまずそこに着いたら、翔兄に連絡をしてみよう。  バックミラーがチカリと光ったので小鳥の目線がそちらへ向く。背後から白い車がやってくる。  窓を少し空かして、車のエンジン音を確かめる。  走るためにいじったエンジンだと直ぐにわかった。だけれど、見覚えのない車。 「白のランエボ?」  三菱のランサーエボリューションがひとカーブ後ろにいる。
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