7.エンゼル、ごめんなさい

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 赤と黒のランエボ乗りなら、数名知り合いがいる。いま集まる同世代仲間に白のランエボはいない。  いるとしたら親父世代? エンジンの音も違和感がある。聞き覚えのないエンジンのような気がする。  英児父のように週末に走りにやってくるお父さん達も少数だけれどいる。だけれど今日のような平日に現れることは滅多にない。  けたたましいエンジン音から、向こうはかなりのスピードと馬力で峠を駆け上がってきている様子で勢いと気迫を感じた。  そんなに走りたいなら、ただ走っている車は邪魔だろう。近づいてきたらやり過ごそうと思っていた。  夜道に白く浮かぶランエボが背後に迫ってきた。小鳥はスピードを落とし、ウィンカーを出して路肩に寄る合図を出した。  ブウンと唸るランエボがどんどんどんどんMR2の後部に迫ってくる。 「なんで。追い越してくれてもいいのに」  冷や汗が滲んだ。もしかしてという小鳥の予感が当たる。  後ろのバンパーあたりを巧みに『ごつん』と突いてきた。それで確信した。『煽られている』!  意地悪い走り屋がすることだった。遠くに走りに行けばたまに会うことはある。だがこの峠では初めて。つまり『余所者』! 「そっちがその気なら――」  仕方がない。もうすぐ頂上の駐車場。そこに逃げ込めば、この車も走り去っていくだろう。ほんの少し付き合ってあげればいい。  窓を閉め、小鳥はハンドルを強く握りしめる。ギアを入れ直し、アクセルを踏んだ。  案の定、小鳥がスピードを上げて離れると、追いつくようにして向こうが追い抜きにかかってきた。上手く土俵に乗せられたことになる。
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